社畜レベル向上プロジェクト

真剣に社畜としての自分の人生に向き合うブログです

襲い来る便意と勇敢に戦い、そして散っていった友人の話。〜就活生の君に捧ぐ〜

時代はリーマンショックの前まで遡る。

まだ就職氷河期の氷が解けず、苦悶の表情のまま氷漬けになっている先輩達を横目に見ながら、必死に会社説明会と言う名の自己アピール会場に足を運ぶのが日課となっていた時期の話だ。

友人は急いでいた。ようやく漕ぎ着けた有名企業の一次面接は朝9時開始だったのだが、なんと寝坊してしまったのだ。
昨晩、志を同じくする友と(といっても会社説明会でたまたま隣に座っただけだが)安酒を飲みつつ、いかに自分達が世の中に貢献できる人間かを居酒屋の店員に熱く語っているうちに明け方になってしまった。
昔のアニメでよく見たダメ親父が明け方に千鳥足で帰路に向かうシーンそのままに、フラフラとしながらなんとか無事に家に帰り着いた。軽くベッドに横になるだけのつもりが、倒れこんだ瞬間に案の定気持ちの良い世界に包まれ友人は堕ちてしまった。
小一時間後、奇跡的に面接の一時間前に目覚めることに成功し、瞬間的に家を飛び出して今山手線の満員電車に乗っている。
酒とタバコとオトコの臭いに包まれ不快な気分だったが、しばらくしてこれは自分の臭いであることに気付く。
と同時に、あいつはやってきた。
便意である。
まずは第一波、あいつは軽いジャブを打ってくる。"これからいくぜ"という宣戦布告である。しかしこのジャブも友人を唸らせるには十分な鋭さを持っていた。
どうする!?途中駅で降りるか!?いやここで降りたら確実に面接の時間には間に合わない。まだ第一波だ、これは耐えなければ。

友人は電車を降りなかった。

しかしまもなく、第二波は容赦なくやってくる。第一波よりも力強く、より突進力を持って堤防を決壊せんと押し寄せてきた。しかし友人の肛門もやわではない。テニスで鍛えた友人のケツ筋がここぞとばかりに第二波を食い止める。しかし、もう時間の問題である。

昨夜食べた安居酒屋のたこわさや粉物達とよく分からない焼酎とが胃腸で化学反応を起こしたのだろうか。脂汗を流し苦悶の表情で満員電車の中に立ちすくむ友人の頭の中にはもはや面接のめの字もない。
しかし、友人は降りない。

もはやこの波に耐える目的を考える余裕もないはずであるが、友人は耐え抜き、面接会場の最寄り駅に降り立った。

しかし、事はそう簡単に運ばない。
改札直前であいつの第三波が襲ってきたのだ。あいつは勝負を決めに来たかのごとく、最大勢力で堤防に襲いかかる。
もう限界だ。幸いトイレは改札横にある。2分で済ませばまだ間に合うはずだ。
友人はトイレに向かい不自然な内股で歩き始めた。
ここで個室が満室となっているのがお決まりのパターンなのだが、なんと個室は空いていた。
友人は自分の強運に感謝しつつ、個室に入り、カギをかけた。
ふぅ、と安心し、ベルトを外す。

 

時に運命は残酷である。

これまで必死にあいつをくいとめていた肛門はもう限界を超えていたのだ。
安心してしまった友人の肛門には、もうあいつを止める力は残っていなかった。

堤防は決壊した。
友人がズボンを下ろす0.5秒前に。

確かにこの上なく気持ちよかったのだ。堤防が決壊して為すがままに糞を垂れ流すその瞬間だけは。
まもなくして、尻から足にかけて感じる生暖かい感触と、急速に充満するウ◯コ臭で友人は我に返った。

とても2分で解決できる問題ではなくなった。

どう考えても絶望的状況であるが、そのときの友人には絶望している時間もない。
なんとかうまく処理して面接に行かなければ。

とりあえずパンツは捨てた。
ズボンは濡らしたトイレットペーパーで拭き、茶色の半液体は拭き取ったものの、やはりズボンは凄まじいウ◯コ臭を放っている。
面接はどうする!?ノーパンでウ◯コ臭、こんな誰にも会いたくない状況で面接に行くなんて狂ってる。
と、今なら思うが、当時の友人はこう考えた。

行くは一時の恥、行かぬは一生の恥

友人は面接会場へ向かった。
酒とタバコとオトコとウ◯コの臭いを撒き散らしながら友人は朝の通勤ラッシュの中を駆け抜けていく。
面接会場は駅前のビルの中だった。

既に何人もの就活生が待合室で待機していた。
待合室に入った瞬間、全員の目線が友人に集まった。当たり前だ。
恐らく、新種の強烈なワキガの奴が来たか、緊張のあまりウ◯コを漏らしていることにも気付かない、或いは気付いているがやむなくやって来た可哀想な人と思われただろう。
彼のお尻に臭いを放つ大きなシミがあることに気づいた人間は、正解は後者であることに気づいただろうが。

友人は強かった。平然と待合室に座り、名前を呼ばれるのを待った。
友人の近くにいた就活生の中にはあまりのウ◯コ臭に席を離れるものもいたが、友人は動じなかった。
もともと時間ギリギリだったこともあり、待合室に着いて1分もしないうちに彼は女性の面接官に名前を呼ばれて面接部屋に入った。

面接が始まってすぐ、その女性面接官はその異臭に顔をしかめた。
しかし、聞けない。
万が一体臭だった場合に、あとで掲示板などに書かれて大変な問題になる可能性もあるからだ。
香りに気をつかっているであろう彼女は1秒たりとも友人と同じ空間にいたくなかったはずた。
友人はひととおりの定型質問を受け、予定よりもかなり早く面接は終了した。

面接が終了した段階では友人はまだ一縷の希望を持っていたが、3日後には無常にもお祈りメールをもらうことになる。

至極まともな判断だろう。
友人の希望職種は営業であり、仮にこの異臭が体臭だとしても殆どの客には受け入れられない。もしウ◯コを漏らしていることに彼女が気づいていたとしても、その状態で面接に来ること自体が異常とも思える行為であり、その段階で他の就活生と比べ数百メートル後方のバックティーからのスタートである。

 

友人のこの話は今では仲間内では語り草になっている武勇伝であるが、本人にとっては黒歴史らしく、合コンでは触れてはいけないタブーな話題とされていた。(当たり前か)

何が言いたいかと言うと、どんな人間にもひとつやふたつ死にたくなるほど恥ずかしい経験や大失敗がある、ということである。だから、大恥をかいても大失敗をしても、そのうちなんとでもなるから大丈夫。

最後に、この記事を書くにあたり十数年前にこの実話を提供してくれた、今は某航空会社のパイロットになっている友人に感謝の意を表したい。願わくはコックピットのすぐ近くにトイレがあらんことを。